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Designer Interview FUNCTION( ) 松田優  MATSUDA Yu 

みかん畑に囲まれた閑静な場所にある松田さんの仕事場は、町の歴史を研究されていたお祖父さまが書斎として使われていた場所。天井の梁が見え、壁中を埋めるように並ぶ本棚に、松田さんの手がけた作品が並んでいる。東京、静岡とわたり歩き、独立して浜松に戻られた今、改めて浜松で働くことの意味を尋ねてみた。

デザインにこそ理系の思考が必要

大学を卒業し、東京、静岡市と場所を移しながら生まれ育った浜松に帰ってきたプロダクトデザイナーの松田優さん。7月にはCCC(静岡市クリエーター支援センター)での展覧会企画公募EXHIBITIONSなど、精力的に活動をされている。

大学は静岡文化芸術大学にいました。機械に興味があって工学部を志望していたんですが合格しなくて…。大学に入ったときも、やりたいことは決まっていませんでした。デザインはアートであり、感性がほとんどを占めている、と思っていました。大学3年のとき、物づくりには理系の脳みそが必要になんだと気付き、デザインの面白さに目覚めました。結局時間が足りず、デザインを学ぶために大学院に進学しました。卒業後は、入りたいデザイン事務所があったので東京に移り住みました。3ヶ月ほどいましたが入社することは叶わず、縁あって静岡市にあるmag design labo.というプロダクトデザインもしている事務所でお世話になることになります。2013年の3月まで在籍する中で仕事の全部を理解した訳ではないけれど、それぞれの工程や流れなど10%ずつくらいなんとなく分かった。そこから先は自分で試行錯誤しながらできるかなと、やれるんじゃないかという希望もあって独立を決心しました。

 

工程を理解することで、完成度がぐっとあがる

独立して半年あまり。地元のメーカーを中心に仕事をされている。内容は課題に対し企画提案し、図面を引き、後工程は職人に依頼するというスタイル。一方で、個人作家として今年の11月にはIFFT(東京国際家具見本市)の出展を控えている。

仕事の内容としては、地元メーカーの技術開発部など、ある技術をどのように利用したらよいか困っているクライアントに、その利用方法や造形的な提案をしています。技術者は技術を生み出すのが仕事。その利用方法を考え広めるのはデザイナーの役目と思っています。技術や素材ありきでデザインを考えないといけないですが、人が不自由なく使えるかという点も大切ですね。ほかにも、社内展示用の作品や資料、営業ツールなどもお手伝いさせてもらってます。人の紹介からはじまり、次の仕事へつながっている感じです。守秘義務もあり、詳しくお話しできないものが多いですが(笑)僕は図面を引くことはあっても作業をすることはまずないです。それでも後工程のことや技術のこと、つくりやすさを十分に理解してデザインするよう心掛けています。そこを知っているか知っていないかで、仕上がりや職人さんとのコミュニケーションに圧倒的な差がでてきますから。

現在は8割9割がメーカーとのお仕事です。自分名義の仕事はアルミホイルの作品など、わずかです。この比率は変えていきたいと思っていますし、いずれは個人ブランドを持ちたいと思っています。影響を受けた作家では、コンスタンチン・グルチッチ(Konstantin Grcic)。ミニマルなデザインが特徴なんですが、特にグラスのデザインは、スタッキングの段差を内側に持ってくることで外側がプレーンに仕上がっている。厚みが変わる部分の見た目がとても美しい。定番を刷新するこんなデザインをしてみたいですね。ほかには深澤直人も好きです。人の無意識の仕草を分解したり、物事の本質を探る部分は共感します。彼の『デザインの輪郭』はいい本ですよね。5、6回くらい読んでるんですが、読むたびに引っかかるポイントが変わって、深みがある本です。今後してみたことと言うと、イスをつくってみたいです。とくに木で。単純にイスが好きってのもあるんですが、自分のしたいことが出やすいアイテムですし、人が座るとか、職人的な工程など、要素が多い。単純そうに見えても奥が深いからこそ、やりがいがあります。

静岡と浜松の産業のちがいと、それぞれの魅力

みかん畑に囲まれた閑静な場所にある松田さんの仕事場は、町の歴史を研究されていたお祖父さまが書斎として使われていた場所。天井の梁が見え、壁中を埋めるように並ぶ本棚に、松田さんの手がけた作品が並んでいる。東京、静岡とわたり歩き、独立して浜松に戻られた今、改めて浜松で働くことの意味を尋ねてみた。

静岡市と比べると、浜松は自社製品や商品開発をしている会社が少ないように感じる。家具の産地でもある静岡は、ものが売れなくなったとき、小物や雑貨、手軽な家具などをつくり販路を確保してきた。時流にあわせて自社製品を改良し、売っていく文化があるけど、知っている限り浜松にはそれがない。自動車などの大きな産業があり、その下請けが多い街。産業が違うというのもあるけど、制作期間、ロット数のちがいも大きい。木工はすぐに試作できるけど、車はそういう訳にはいかない。そのスピード感のちがいも大きいと思う。静岡市はデザイナーとメーカーをマッチングさせるプロジェクトがあり、デザイナーを補助する体制がつくられている。デザイナーが介在することで、販路の拡大や課題解決、ブランディングなどをサポートしている。浜松でも同じようなことができれば嬉しいですね。

静岡はビジネスとして成立しているけれど、逆に浜松は個人で活動している方が多い。この雑多感が浜松の魅力なんじゃないでしょうか。例えば、僕も会員として参加しているツールシェアリングスペースの「Take’-Space」。個人個人がものをつくる、欲しいものは自分でつくるといったメーカーズ、ファブラボといった考えは共感できるし、浜松の土壌として適していると思います。ものづくりのリテラシーを高めるために小学生に対しSTEM(ステム)教育*1を行っている点でも注目しています。小さな頃のこの体験は、ものづくるの原体験になり、大人になってきっと役に立つはず。長期的なスパンになるけど、ここへの投資は大切だと思うし僕も協力は惜しみません。東京に憧れがある学生には、やる気と実力があれば十分、浜松でもがんばれると言いたい。打合せといった距離的な問題はFacebookなどのネット環境が解決してくれる。ただ、美術館をはじめとする、入ってくる情報量は東京の方が圧倒的。これが埋められたらいいんですけど難しいですね。ここは地方の悔しいところ。もちろん浜松ならではの魅力もあって、決裁のある方と距離が近いとか、車やアトリエを持ちやすいとか。それらをひっくるめれば地方ならではのメリットはあると思います。サブロク版の板を買って、車でアトリエに運んで試作品をがしがしつくれるってのは、物価が高い都会ではきっと叶わないと思いますよ(笑)

*1 STEM教育:STEMとは、Science, Technology, Engineering, Mathematicsの頭文字をとったもの。イノベーションを生み出せる人を増やすことを目的に、従来の科学技術教育、理数教育を統合・体系化したもの

Profile

松田優MATSUDA Yu

1986年浜松市生まれ。静岡文化芸術大学大学院 デザイン科卒業。静岡市にあるプロダクト系デザイン事務所を経て独立。FUNCTION( ) 主宰。コイズミ国際学生照明デザインコンペ 佳作/web優秀賞(2011)、コニカミノルタ エコ&アートアワード2012 準グランプリ、LGモバイル デザインコンペティション2012 ブロンズ賞など、受賞歴多数。


http://www.yumatsuda.com/

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