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Designer Interview アートディレクター/デザイナー 池上直樹  IKEGAMI Naoki 

より広く、楽しく。クライアントと“一緒に考える”

コトホギデザインの池上直樹さんは、神戸で生まれ育ち、東京でキャリアを積み、数年前に奈良へ、そして浜松に移り住み、現在は沖縄で生活をしています。仕事で浜松に戻ってきた池上さんを捕まえて、デザインのこと、暮らしのことなど、お話を伺いました。

浜松はとてもいいところ。気に入っています。

浜松市北区に住んでいたのは半年ほど。とてもいいところでしたし、今でもすごく気に入っています。それは、首都圏からも関西圏からも近いのが仕事をするうえで便利ということだけではないんです。週末にはいつも、子どもたちが集まって遊ぶのを見守りながらご近所の方々とビールを片手にいろんな話をしたり、たびたびバーベキューをしたり。クライアントや仕事仲間の方々にも仲良くしていただいて、やっぱりビールを片手にバーベキューをしたり(笑)。買い物に行けばお店の方が親切にしてくださって親しくなったり、また別のお店や人を紹介していただいたりして、どんどん顔なじみが増えていく。これまでいろいろな地域に住んできましたが、自分が浜松でこんなにも楽しく暮らせたなんて、来る前には想像もできませんでした。

僕の生まれは兵庫県神戸市。5歳になると親の転勤で福岡県北九州市へ。さらに、兵庫県姫路市、再び神戸市へと引っ越しを繰り返します。高校生のとき阪神淡路大震災を経験したことがきっかけとなり、耐震工学の勉強をするために大学で上京。それから卒業、就職、独立を経て約17年間にわたり、東京近郊に計6回の引っ越しをしながら住みました。

東京ではそれなりに忙しく、生活のほとんどを仕事が占めていました。自宅兼事務所で、コピーライターの妻との二人体制ということもあり、朝起きてそのまま仕事部屋へ行き、寝る直前まで仕事をするような日々。それが、娘が生まれたことですっかり変わったんです。子どもが育つ環境や家族での暮らしのありかたを考えるようになり、縁を頼りに奈良へ。その後、妻の実家の事情もあり、たまたま浜松に引っ越してきました。

みんなが楽しみながら、一緒に考える。

東京から奈良、そして浜松へと移り住んで、仕事にもそれぞれ変化がありました。もともとクライアントと直接やり取りできる案件を意識的にメインで受けてきたのですが、仕事の内容やスタンス、クライアントとの関係性が変わったことで、自分が関われることの幅が広がってきていて、とても面白いですね。たとえば、東京では自分に来る仕事の依頼内容が、「こんなロゴを作ってほしい」「この商品のパンフレットをデザインしてほしい」など、具体的かつ限定的なものが多かったんです。成果物をもとに成り立つ関係性というか。もちろん、それによってひとつのものを突き詰めて作りこんでいくような制作の経験をたくさん積ませていただいたことは確実に自分の糧になっていると思います。

それが、いわゆる地方では仕事の範囲がより曖昧で、たとえば「パッケージをデザインしてほしい」という依頼があってスタートした案件でも、話を伺ったり制作を進めたりしているうちに、さらにそのまわりに別の仕事が生まれてくることがたびたびあるんです。それでいまは商品開発やブランディングなどにも多く関わらせていただいているんですが、そういった仕事の広がりによって自分の経験や知識、そして視野も広がっているので、とてもありがたいと思っています。

浜松や磐田の仕事では、クライアントの方々との距離がよりいっそう近いというか、同じステージの上で“一緒に考える”というようなスタンスで仕事をさせていただけていて。制作物を依頼されたとおりにデザインしているというよりも、もちろん実際にデザインはしているんですが、イメージとしては日々その人に伴走している感じに近い。そうしていくなかで、ありがたいことにクライアントや一緒に関わらせていただくクリエイターの方々と仕事を越えて個人としてのお付き合いが生まれ、最初にもお話ししたようにビールを片手にバーベキューなどご一緒させていただいているわけなんですが(笑)。関わる人みんながそれぞれに楽しみながら(もちろん困難もありますが)ひとつのプロジェクトを進めていくというのは、僕にとっては理想のかたちです。浜松での暮らしは、そんなふうに仕事においても、私生活においても、人に恵まれているなあと感じています。友だちがいっぱいできた!って(笑)

距離を飛び越えて、より広いフィールドで。

わが家では何においても娘のことを最優先にと決めていて。こんなにも気に入っている浜松をいったん離れて沖縄へ引っ越したのは娘にいま提供してあげたい環境のためなんですが、僕は正直なところとてもさみしいですね。でも、日本の真ん中から南端に住まいを移すからこそ、仕事においてもこれからもっと距離を飛び越えてやっていけたらと思っています。東京にいた頃から遠方の仕事も受けてきましたし、奈良や浜松へ移っても東京での仕事を継続させていただいていましたが、自分自身も今後さらに軽やかに、場所にとらわれずより広いフィールドで仕事をしたい。移動することによって途切れるものよりも、移動するからこそ恵まれる出会いや経験をいまは大切にしたいんです。世界から見たら浜松と沖縄は近所(笑)。そのくらいの感覚を常に自分のなかに持っていたいです。

そこで、自宅は沖縄に移しますが、仕事の拠点としては今後、浜松、沖縄、神戸の3か所に置くことにしました。神戸に関しては、フリーランスのメンバーで構成する会社を準備しています。異業種のクリエイターが集まり、フリーランスではなかなか受けられない規模の仕事をするのが目的で、少しずつ動き始めています。

浜松では進行中の案件もありますし、せっかく友だちもできたし(笑)、もっと関わっていきたいです。とはいえ、依頼する側としては実際にはまだまだ距離に抵抗を感じられる方も多いですよね。僕としては、案件に真摯に向き合うとともに、これまでにいただいたご縁をひとつひとつ大切に育てていけたらと思っていますが、それに加えて、自分で仕事を生み出すようなこと、さらにそのなかで、僕から見た浜松の魅力を発信していくようなこともできないかなあと実は画策中です。

Profile

池上直樹IKEGAMI Naoki

兵庫県神戸市出身。日本大学理工学部土木工学科(耐震工学専攻)卒業。コンサルティング会社、パッケージデザイン会社を経て、2006年コトホギデザインを設立し独立。東京で約10年(学生時代からあわせると約18年)を過ごした後、奈良、静岡と移り住み、現在は沖縄在住。中国国際ポスタービエンナーレ2019銀賞受賞。亀倉雄策賞ノミネート。東京ADC、GRAPHIC DESIGN IN JAPAN、日本タイポグラフィ年鑑、東京TDC、ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ、トゥルナバ国際ポスタートリエンナーレ、モスクワ国際グラフィックデザインビエンナーレ、ブルノ国際グラフィックデザインビエンナーレ、中国国際ポスタービエンナーレ、台湾国際グラフィックデザインアワード、十勝ポスターアワードなど入選。キッズデザイン賞、ウッドデザイン賞、JAGDA静岡グラパ賞、TOPAWARDS ASIAなど受賞。公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)会員


https://www.kotohogidesign.com/

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デザイナー・オープリソースプロジェクトは、浜松に関わりのあるデザイナーに焦点をあて、その持てる力を引き出すためのプロジェクトです。

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